国内の治験コスト、スピード、質をいかに国際レベルに近づけるかが課題
国内外の多くの製薬企業が合併を繰り返して、巨大化し、新薬開発に莫大な費用を投じている近年、新薬の開発競争はますます厳しいものになってきています。
世界最大の売上を争うファイザー(米国)とロシュ(スイス)は、新薬の研究開発費として年間約1兆円〜1.5兆円を割いていますが、これは国内最大の製薬企業である武田薬品工業の研究開発費の約2〜3倍です。
新薬開発をめぐる環境は、ICH(承認審査ハーモナイゼーション国際会議)における日本、アメリカ、EUの合意によって大きく変わりました。これは従来、各国が独自に設けていた新薬承認の様式を日本、アメリカ、EUが共通化するというもので、製薬業界にとって国境なき市場が生まれることになりました。
国内の製薬各社は、海外市場へ進出する際へのハードルが低くなったことを意味する一方、日本国内では経営資本で圧倒的に優位な外資系製薬企業を相手に、シェア獲得競争を行わなければなりません。
1997年に厚生労働省が導入した新GCP(臨床試験の基準)では、日本における臨床データの利用範囲は限定されていましたが、後に海外臨床データも国内の承認審査に積極的に活用することが決定され、国内データを義務付ける項目などを撤廃することにより、承認期間も12ヶ月程度に短縮されました。
また、1997年からは認可法人である試薬品副作用被害救済・研究振興調査機構が、臨床試験の手順を示す「治験相談」制度をスタートさせました。これにより、僅か半年という迅速さで承認されたのがファイザーのED治療薬「バイアグラ」やエーザイのアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」でした。
2000年に入ると、厚生労働省が臨床試験の際の検査基準の規制緩和を行ったことをうけ、製薬企業もテレビや新聞、雑誌での広告、インターネットでの臨床試験への参加を求めるようになり、一時期のような深刻な治験参加者の不足は解消傾向を見せはじめました。
2002年の改正薬事法で医師が未承認薬の提供を受けて治験を実施できるようになったことを踏まえて、厚生労働省は2003年「治験活性化3年計画」を発表しました。同計画の柱は、大規模な治験ネットワークの構築と、CRC(治験コーディネーター)を新たに5000人養成することでした。大規模治験ネットワークはがん、循環器疾患、小児医療などの10分野ごとに20医療機関を公募し、必要性の高い未承認薬を選定して治験を行うもので、治験期間の半減を目標としました。
厚生労働省の計画はさらに進み、2003年には、国内では患者数が少ないため、採算性が低いとして製薬企業が乗り出さない薬について、医師が治験実施を主導できるようにし、国が経済的な支援を行うことにしました。
治験活性化計画は1年延長され、この間に国内における治験届出数は増加傾向に転じたことなどで、日本での治験実施体制が整備されてきたことを照明しましたが、欧米と比べると、治験のコスト、質、承認期間においてまだまだ課題があります。
そこで2007年3月には「新たな知見活性か5ヵ年計画」が策定されました。その柱は「体制整備」「人材育成の確保」「普及啓発と参加の促進」「企業負担の軽減」などで、数値目標を含めた具体的なアクションプランが定められています。
例えば、治験の中心的な役割を担う中核病院・拠点医療機関48箇所程度の体制整備を構築すること、治験の効率的かつ迅速な実施、経験豊富なCRC(治験コーディネーター)の上級研修をモデル的に実施、新規CRCを3000人養成するなどです。
製薬企業が競争が厳しい現在の市場で生き残るためには、新薬開発と海外戦略がカギとなります。このため、大手製薬企業は研究開発費を大幅に拡大し、過去最高額が毎年記録されるなど、新薬開発に並々ならぬ決意で臨んでいます。
また、医療費抑制策が進む日本からターゲットをアメリカ市場に絞るため、欧米での開発を先行させる動きにも拍車がかかってきています。国内での治験制度の更なる改善と迅速化が実現できれば、国内の治験数の増加はより確かなものになると期待されています。