医薬品メーカーが順守を義務付けられているGMP基準の概要
少量でも人体に作用し、影響を与える医薬品は、その取り扱いに際して細心の注意が求められます。製造元である医薬品メーカーも例外ではなく、薬の候補物質の選定から始まり、開発、製造、販売、流通に至るまで、多くの規制を受けることになります。
なかでも医薬品メーカーが最も気をつけなくてならない規制に「医薬品の製造管理および品質に関する規則」と「薬局等構造設備規則」があります。これらの規則はGMP(Good Manufacturing Practice)とも呼ばれ、その順守が義務付けられています。
GMP基準に掲げられている基本要件は、@製造段階でのヒューマンエラーを最小限に抑えること、A汚染および品質低下を防止すること、Bより高度な品質を保証するシステムを設計すること、の3つです。
高度な品質管理体制は、品質管理部門を製造部門から独立させることから始まります。さらに、原料の受け入れ、医薬品の製造、包装、搬出に至るまで、あらゆる段階でチェック機能を設け、その全てをパスしなければ出荷できないシステムを構築します。
この各段階におけるチェック項目が「医薬品の製造管理および品質に関する規則」で、手順書として文書化されており、それはGMPソフトと呼ばれます。GMPソフトの内容は「製造管理・品質管理の組織・責任体制の整備」「製造・試験検査手順の文書の整備」「バリデーション(製造手順等が適切であることの確認)の実施」などの5つとなっています。
また、文書化された手順だけではなく、医薬品を製造する設備や場所にも基準が設けられています。これが「薬局等構造設備規則」でGMPハードと呼ばれています。
GMP基準は1994年4月以降、メーカーの順守事項から、厚生労働省の許可要件に変更されており、製造や品質の管理に問題が生じれば、業務停止を命じられることもあります。
また、医薬品を欧米に輸出する場合は、日本のBMPと同様に、当該国で定めた管理基準を満たす必要があり、その国の査察官が工場を訪れて査察を行うことになっています。なかでもアメリカにはCGMPと呼ばれる世界で最も厳しいとされる基準があります。
医薬品メーカーの相次ぐGMP違反を受け、「改正GMP省令」が施行(2021年)
近年は医薬品メーカー、なかでもジェネリック医薬品(後発医薬品)メーカーが、GMP違反を理由とした医薬品医療機器等法に基づく行政処分を受ける事例が相次いでいます。
会社名 | 処分者 | 業務停止期間 |
協和発酵バイオ | 山口県 | 18日間 |
小林化工 | 福井県 | 116日間 |
日医工 | 富山県 | 31日間 |
岡見化学工業 | 京都府 | 12日間 |
久光製薬 | 佐賀県 | 8日間 |
北日本製薬 | 富山県 | 28日間 |
長生堂製薬 | 徳島県 | 31日間 |
松田薬品工業 | 愛媛県 | 65日間 |
日新製薬 | 滋賀県 | 75日間 |
共和薬品工業 | 大阪府 | 33日間 |
2019年12月、山口県は協和発酵バイオに対し、長年に渡りGMPに違反していたとして18日間の業務停止の処分を下しました。同社は抗がん剤「マイトマイシン」の原薬を承認時とは異なる手順で使用したことが明らかになり、製造販売元の協和キリンはマイトマイシンを自主回収し、国内に代替品がない事態になりました。
特に大きく報道されたのが、2021年2月、水虫などの真菌症の治療薬「イトラコナゾール」に製造過程で睡眠剤「リルマゾホン」が混入し、服用した女性1人が死亡などの重篤な健康被害を出した小林化工です。これにより最大116日間の業務停止という重い処罰が下されましたが、その後も医薬品の承認申請時に虚偽の内容を記載したり、治験の監査が不十分だったことが明らかになり、厚生労働省は小林化工に対して12品目の承認取り消しと業務改善命令の処分を行いました。
小林化工は自社の医薬品だけではなく、他者から委託を受けて製造している医薬品も多く、行政処分により約500品目が供給停止となり、2022年現在も続いているジェネリック医薬品の供給不足、更には医療現場のジェネリック医薬品に対する不信感や不安感を増大させるきっかけとなりました。
2021年3月、小林化工は自社再建を断念し、サワイグループホールディングス(ジェネリック医薬品メーカーの沢井製薬を中核子会社とするサワイグループの持株会社)に生産拠点と人員を譲渡することになりました。
小林化工のGMP違反から1か月後、沢井製薬、東和薬品と並んで国内ジェネリック大手3社に数えられる日医工がGMP違反で32日間の業務停止処分を受けました。福井県が日医工の富山第一工場へ実施した抜き打ち検査で、一部製品の品質管理体制の不備、出荷後に実施した安定性試験で不適合の結果が出ていながら回収措置を怠ったというものです。
日医工は、2019年にはジェネリック医薬品メーカーのエルメッドエーザイを、翌2020年には武田テバファーマのジェネリック事業の一部(ジェネリック医薬品486項目)を買収していることから、小林化工の業務停止時と同様に医療現場に大きな混乱をもたらしました。
2021年8月、「改正GMP省令」が施行されました。近年相次いでいる製薬企業によるGMP違反の事例を踏まえ、医薬品の品質確保における経営陣のコミットが明記されるなど、製薬企業が医薬品を適切な品質で安定供給するためのシステム作りが要件化されている点が大きな改正点となっています。
各社のGMP違反の余波でジェネリック医薬品の供給不足が発生(ニュース動画)
日本テレビのニュース番組「news every」で、上記のGMP違反が原因でジェネリック医薬品が不足状態に陥っている現状が特集された時の動画(公式チャンネル)です。2022年8月時点で出荷停止or限定出荷になっている医薬品は約4200品目(うちジェネリックが3800品目)。
一社のみならず複数の後発品メーカーが相次いで不正を行った背景として、専門家はジェネリック医薬品市場の急速な拡大を挙げています。
GMP違反で業務停止となった企業は、停止期間が明けたからといって以前のように薬を製造できるわけではありません。承認を受けた際の手順書通りに医薬品を製造しなかったことが全ての元凶だったので、改めて製造医薬品の全品目(企業によっては数百)の手順書を一から作り直して、厚生労働省から承認をもらう必要があります。このプロセスには2〜3年かかるので、ジェネリック医薬品の不足問題が解決されるのは2024〜2025年まで待つ必要がありそうです。