ドラッグ・ラグを解消するため、審査プロセスの平均日数を大幅に短縮

全部で1億円ほどの手数料が必要

培養細胞や動物を使用した前臨床試験、人を対象とした第T〜V相の治験の流れを通じて、医療上の有効性と安全性が確認された新薬は、いよいよ上市(市場に出ること)を目指して、厚生労働省への製造販売承認の申請を行ないます。

これを受けて厚生労働省は同省が管轄する独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)において審査にかけます。同機構は、医薬品の副作用や感染などによる健康被害の救済、薬事法に基づく医薬品・医療品の審査、それらの品質を確保するための安全対策を行う団体です。

製薬会社は臨床試験を始める前から、総合機構による「治験相談」という審査を受けており、製薬会社が手数料を支払い、総合機構の助言を受けます。料金は治験前で600万円、第V相終了時までさまざまな相談区分があり、試験が無事見終われば、収集したデータを整えて、厚生労働省に承認申請します。

申請時も、製薬会社は審査手数料として3000万程度を支払います。ここまでの段階で1億円近く総合機構に支払うことになります。

承認審査では、医学、薬学、獣医学、生物統計学などの専門課程を修了した審査員によるチーム審査が行われ、さらに臨床医師などの立場からの専門委員の意見等を踏まえて行われます。これらの承認審査に合格した医薬品には、厚生労働大臣から製造販売承認が与えられます。

近年、海外で広く使われている抗がん剤などが日本では使えない「ドラッグ・ラグ」問題が新聞やテレビで頻繁に採りあげられるようになりました。

従来、厚生労働省による医薬品の販売承認は、製薬会社の承認申請を前提とした、「申請主義」に原則としてきましたが、新薬承認の遅れが患者団体などからの批判を受け、未承認薬のなかでも特にその必要性が高い医薬品を選定して、製薬会社に承認申請を促すようになってきました。

2011年以降、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査能力の増強の取り組みの一環として、新薬の審査期間の大幅な短縮が図られてきました。2018年に日本で承認された新薬の審査期間の中央値は9.9か月で、同年のFDA(アメリカ食品医薬品局)における審査期間の中央値(10.0か月)とほぼ同等、EMA(ヨーロッパの欧州医薬品庁)における中央値(12.6か月)よりも短くなっています。(データは医薬産業政策研究所「日米欧の新薬承認状況と審査期間の比較」より)

下の一覧表は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の年次データを基に作成した、国内における新薬の承認取得数が多い製薬企業のランキングです。上位は豊富なパイプライン(新薬候補)を擁する外資系で占められています(トップの中外製薬はスイスのロシュ・グループ)。

国内における新薬の承認取得数の多い製薬企業ランキング
順位 製薬企業 新医薬品の承認数
2022年 2021年 2020年
1 中外製薬 10 6 8(3位)
2 アストラゼネカ 9 4 6
3 MSD 8 7(1位) 5
4 ファイザー 7 7(〃) 3
5 サノフィ 6 2 4
6 アッヴィ 5 5 3
7 日本イーライリリー 4 4 5
7 武田薬品工業 4 7(1位) 7
9 小野薬品工業 3 7(〃) 11(1位)
9 ノバルティスファーマ 3 3 9(2位)
9 バイエル薬品 3 4 2
9 ヤンセンファーマ 3 3 5
9 第一三共 3 2 2
9 塩野義製薬 3 2 1
9 協和キリン 3 2 1
9 大鵬薬品工業 3 2 0
9 田辺三菱製薬 3 1 1
9 マルホ 3 1 0
9 アレクシオンファーマ 3 0 1
9 ユーシービージャパン 3 0 1

画期的な新薬の早期実現を目指す「先駆け審査指定制度」の内容と対象品目の一覧

画期的な新薬が世界に先駆けて日本で開発・承認されるためには、更なる審査期間のスピード化が求められます。そこで審査期間の大幅な短縮(従来の半分)を目指して、2015年に新薬の「先駆け審査指定制度(2020年から先駆的医薬品指定制度の名称へ)」が新設されました。同制度の対象になった医薬品は、承認申請の前であっても医薬品医療機器総合機構(PMDA)が「事前評価」という実質的な審査を行ううえ、他の医薬品よりも優先して審査のテーブルに上げられる(優先審査)ため、審査機関が大幅に短くなるという制度です。

また製薬企業側のインセンティブとして、「先駆け審査指定制度」を経て承認された医薬品(先駆的医薬品)は、薬価算定で10〜20%の薬価がプラスされる「先駆け審査指定制度加算」という優遇措置が設けられています。

ただし、この制度は製薬企業が申請すればどの新薬(候補)でも審査対象になるという訳ではなく、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

  1. 新薬が治療の対象としている疾患が重篤(=根治療法が確立されていない)である
  2. 過去に承認された医薬品が実現していない画期的な作用機序(=薬が効果をもたらす仕組み)を持つ
  3. 従来の医薬品に比べて高い有効性が期待できる
  4. 世界に先駆けて日本で開発・申請する意思がある

2022年時点で以下に挙げる12品目の医薬品が「先駆け審査指定制度」の指定を受けて承認されました。

製品名
(一般名)
社名 申請/承認
ゾフルーザ
(一般名:バロキサビル マルボキシル)
塩野義製薬 17年10月 / 18年2月
ラパリムスゲル
(一般名:シロリムス)
ノーベルファーマ 17年10月 / 18年3月
ゾスパタ
(一般名:ギルテリチニブフマル酸塩)
アステラス製薬 18年3月 / 18年9月
ビンダケル
(一般名:タファミジス メグルミン)
ファイザー 18年11月 / 19年3月
ロズリートレク
(一般名:エヌトレクチニブ)
中外製薬 18年12月 / 19年6月
ビルテプソ
(一般名:ビルトラルセン)
日本新薬 19年9月 / 20年3月
ステボロニン
(一般名:ボロファラン)
ステラファーマ 19年10月 / 20年3月
テプミトコ
(一般名:テポチニブ塩酸塩水和物)
メルクバイオファーマ 19年11月 / 20年3月
アキャルックス
(一般名:セツキシマブ サロタロカンナトリウム)
楽天メディカルジャパン 20年3月 / 20年9月
エンハーツ
(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)
第一三共 20年5月 / 20年9月
オラデオ
(一般名:ベロトラルスタット塩酸塩)
オーファンパシフィック 20年1月 / 21年1月
イズカーゴ
(一般名:パビナフスプ アルファ)
JCRファーマ 20年9月 / 21年3月

「先駆け審査指定制度」から指定が取り消された例もあります。同制度の第一回公募(2015年)において「治癒切除不能な進行・再発の胃がん」の適応で指定を受けていたMSDの「キイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)」は、同じ作用機序(=薬が体に効果を及ぼす仕組み)を持つ小野薬品の「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」が、同じ適応で先に承認を取得したためです。

2017年に新設された医薬品の「条件付き早期承認制度」と対象品目の一覧

希少疾患や重篤な疾患(がん等)を対象とした医薬品など、医療上のニーズは高いものの治験に必要な患者数の確保が難しく、治験のフェーズ3(第三相試験)を完了するまでには相当な時間がかかると認められた医薬品を早期に承認する目的で2017年に導入されたのが「条件付き早期承認制度」です。

条件付き早期承認制度では、一定の要件をクリアした医薬品は、製造販売後に有効性と安全性を再確認する調査(製造販売後調査)を実施することを条件に、治験のフェーズ3の結果を待たずにフェーズ2(第二相試験)などの結果により承認されます。これにより審査期間の大幅な短縮が期待できるという仕組みです。

対象疾患の患者さんへ実際に投与を行うフェーズ3を省略するということは、医薬品の有効性と安全性に関するエビデンスが従来の治験に比べて不足することになります。そのため、フェーズ3以外の臨床試験(治験のフェーズ2、薬剤感受性試験、iPS細胞を用いた試験など)で一定の有効性と安全性をデータとして提出する必要があるなどの要件が設けられています。

制度の流れとしては、申請者である製薬企業が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験のフェーズ2のデータ等を提出して相談する→医薬品医療機器総合機構が評価報告書を作成する→製薬企業は評価報告書を付して厚生労働省に申請を行う→厚生労働省は「条件付き早期承認制度」の適用可否を判断を行う→薬事・食品衛生審議会で報告し、了承を得る…となっています。

2022年現在、「条件付き早期承認制度」の指定を受けて承認された医薬品は以下の通りです。前述の「先駆け審査指定制度」とダブルで指定されているものもあります。

製品名
(一般名)
社名 申請データ
ローブレナ
(一般名:ロルラチニブ)
ファイザー 国際共同第1&2相試験
キイトルーダ
(一般名:ペムブロリズマブ)
MSD 国際共同第2相試験
エンハーツ
(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)
第一三共 国際共同第2相試験
ビルテプソ
(一般名:ビルトラルセン)
日本新薬 国内第1&2相試験
海外第2相試験
アキャルックス
(一般名:セツキシマブ サロタロカンナトリウム)
楽天メディカルジャパン 国内第2相試験
海外第1&2相試験